第2章

自分の知らない自分に出会う時間

CHAPAWONICAが二人の家を訪れたのは9月3日。

それによって智子が秘密をブログで打ち明けたのは9月5日。

そして、智子のヒプノセラピー金のうんちイベントを開催したのが9月6日。

(ヒプノセラピーイベント後の智子のブログはこちら


「今まで乗ったことのない乗り物に乗って、すっごいスピードで初めての体験をしてる気分・・。思い切って公開はできたけど、でも、私全然まだ死にきれていないの。金のうんちを全然出せてないの・・・。まだまだ、隠し事ばかり。」


今までやったことのない挑戦の連続に、様々な想いが押し寄せ続ける智子。

一方妹の寛子は、ヒプノセラピーイベントで自分から湧いて来たワードに衝撃を受けていた。


『自己犠牲』


1LDKの家で一緒に暮らす寛子と智子は寝る部屋も同じ。

お互いのことが大好きだが、長く一緒にいるため喧嘩もたくさんする。

智子は怒ると激烈グーパン大魔王になる。

寛子はそんな智子とのことを誰にも言えなかった。


「わたしを大切にしないなんて!!許せない!!ケンカいつもグーでパンチするくせに!みんなには優しくて可愛い顔してる!わたしは誰にも言わないであげてるのに・・!!」


いつの間にか心の中に積もり積もった気持ちはどす黒い嵐となって寛子に襲いかかっていたのだ。

心身ともにダウンし、辛い状況が数日続いた。



「自己犠牲って恩着せがましいよ」


智子のそんな一言が寛子の胸に突き刺さる。


「ともちゃんのために我慢してるのに・・!!」


過去、寛子は家賃を滞納したことをブログに書いた経験がある。(その時のブログはこちら

自分を素直に出したいけれど、滞納していることを公開すると家族も恥ずかしい思いをしてしまうという罪悪感で葛藤した。

結局勇気を出して公開をしたのだけれど、智子からは「みっともない!ひろちゃんが嫌い!」弟からは「クズ!乞食!絶縁だ!」と言われてしまった。


「嫌わないで!わたしはダメじゃないよ!でも、でも、やっぱり、わたしは愛されていないんだ・・・。」


同時期に遠距離恋愛を育んでいたスペイン在住のイタリア人・ジルとの別れも訪れた。

セックスが合わない。これが、どれだけ辛いことか。

人生において愛のある気持ちのいいセックスをすることの大事さを、ジルとの付き合いを通して知った寛子。

このまま一緒にい続けることは、自身を幸せから遠ざけてしまうと気づいたのだ。

もちろん、寛子はジルのことを心から愛していた。

2年の交際から婚約を破棄して別れるという決断を自ら下したショックは、今の彼女にとって計り知れないものだった。


唯一の肉親の姉と弟、そして婚約者。大切な人たちから一気に見放されてしまったかのような虚無感と言い様のない寂しさに、寛子の心は荒んでいった。

自分を公開しながらも、まだまだ自分が素直になれていないという焦りにも似た焦燥感に駆られる智子。

我を忘れるほどの怒りに駆り立てられ智子に当たってしまう寛子。


「ひろちゃんが、私のことを恨んでいたなんて・・全く気づかなかった。すごくショック」


いつもそばにいても、お互いに言葉に出さないとわかりあえないことなんてたくさんある。

寛子と智子は自分の気持ちに正直になり、たくさんぶつかり続けた。

たくさんの、はじめての自分たちに出逢った。


ふたりはそんな等身大の自分の気持ちをインターネット上で発信し続けるが、仕事の依頼は入らないままだった。

(智子の等身大ブログはこちら)(寛子の等身大ブログはこちら


9月17日。弔いイベントが始まって12日が経過した。

心に大きな変化が次々に訪れているものの、家賃を払えていない状況は依然として変わらない。

10月の家の賃貸更新が、刻一刻と迫り来る。

そんなふたりを見て、CHAPAWONICAの二人は言った。


「ねぇ。思い切って、もっと死ぬ道に行かない?私たちのつくる新しいプラン 『弔い系自分デストロイエンターテイメント』に参加するの」


「え・・・?!なあに?それ・・」


「2人を見ていて思いついたの。きっと、2人だけじゃ見れない世界がある。私たちが考えた2人のためだけのお葬式プランみたいなものかな。それを4人でつくるアート作品として世に出させてもらうの。私たちが思うに、2人は一緒にいる時間が長すぎる。離れてみて見えることがきっとあると思うんだ」


「確かに・・。ひろちゃんがスペインに行っていた6ヶ月間以外、離れたことはほとんどなかったかも・・連絡だって毎日取り合っていたし・・・」


「私たちの考えた2人のためだけのデストロイプランは、こんな感じ。


・一週間期間を決めて、自由が丘の家を離れてそれぞれ1人になる。その間ふたりは連絡を一切取り合わない。


・泊まるところは自分で人に声をかけたりインターネット上で募集したりして決める。

期間中、目の前の出来事や自分のことに集中するためFacebookなどのSNSは使用禁止。メールやラインは使ってOK。

・毎日手書きで手紙を一通書く。宛先は、自分を含めた7人のだれか。自分の内側とゆっくり向き合って素直な想いを綴る。書いた手紙を毎日ちあきとまゆに写メして送ってもらい、それを作品としてインターネットにアップしていく。

・プロジェクトでひとつの作品をつくるという意識で、自分が物語の主人公になった気持ちで行動する。自分個人の意向ではなく、どう動いたら全体として面白い世界が観れるか?という事を考える。

・最終日の9月24日、日曜日に自由が丘の自宅でイベントをして参加者を募る。一週間ぶりに会う二人がどんな事を経験して、どんな事を思ったのか。それを知れるようなトークイベント。進行は私たち2人がする。


きっと、面白い世界が観れると思う。私たちと一緒に、自分をぶっ壊しに飛び込んでみない?」



思いがけない提案に、戸惑う智子と寛子。


「・・・でも、次回の家賃の支払いまで、あんまり時間がない・・。一週間それで潰れちゃったら、お金を手に入れる手段が減っちゃう・・。それに、今手持ちのお金がないから移動だってできるかどうかー」


「私はこの弔いプランを実行した方が、結果的に早くお金も入ってくると思うよ。まずは、自分たちが等身大で、素直に新しいことに挑んでいく事。きっと、すごく濃密な体験になって人生の時間を早送りしたみたいに、行きたい世界に行けると思う。それに、一週間の間に何をしてもいいんだから、路上で何かしてみたり、誰かに声をかけてみたりお金を手に入れつつ動く事だってできるよ」


今までやったことがないことへの挑戦への恐れ。お金がなくなってしまう恐怖。

智子と寛子は迷った末に、直感に従うことに決めた。


「まゆさん、ちーちゃん。私たち、やる。弔い系自分デストロイエンターテイメントに参加する。」


「ありがとう、その言葉を待ってたよ」


2017年9月18日、月曜日。

4人のまだ見ぬ予測不可能な一週間が、いま始まろうとしているー